2005年4月からTV東京で突如始まったハードロック/ヘビーメタル(以下、HR/HM)バラエティ番組『ヘビメタさん』。
内容は多少バカバカしさもあるが、元メガデスのマーティ・フリードマンが所々で華麗にギターを奏で、ANIMETLの仕掛人、音楽プロデューサーの久武頼正氏が見識を披露しているのでロックファンには結構楽しめる。
古いネタでオッサンだけが楽しめる、というのではなく新しいバンドやスタイルなどもちゃんと紹介している所は特筆すべき。
HR/HMファンにとって、いま現在使われているヘビメタという言葉は以前と明らかに解釈が違ってきている。
この番組内でヘビメタはレトロな文化として扱っていて、そのテの音楽が好きな人を『ヘビメタさん』と称すが、かつてはファン自ら大好きなヘビーメタルに対してヘビメタという略し方はしなかった。
なぜか?
1.ヘビーメタルとは?
ヘビーメタルの歴史を長々と語る訳ではないので御安心を。
細かい諸説を無視するとブラックサバス(1970年2月13日の金曜日デビュー!)が起源、ジューダスプリースト('74年デビュー)がジャンルとして確立したと言われているロックのスタイルで、文字通り重金属のような硬質なギターとリズムからそう呼ばれたらしいdeath!
2.ヘビメタという略語
4文字の略語を作るのは日本人の得意技。
いつ使われだしたのかは分からんが、私Kは小学校高学年あたりでヘビメタを認識していたハズ。
ただし、かなり間違った解釈で。
ここが今回の一番大事なポイント!
ほとんどの皆さんもそうだったと思いますがヘビメタで連想するものは、
◆ド派手な衣装とケバい化粧、髪の毛は変な色でおっ立ててたりする
◆ボーカルはハイトーンで絶叫、演奏はノイズだらけでやかましい
◆音楽性はパンクと混同しがち
◆恐そう
◆頭が弱そう
といった感じではなかったでしょうか?
KISSのパロディのような格好で登場した聖飢魔IIがお茶の間に衝撃を与えた後、間違ったイメージを世間に決定的に植え付けた根源は「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」のヘビメタコーナーだと思う。(少なくとも俺の世代では)
Kが一番大好きな最強バラエティ番組が皮肉にもヘビメタという略語を蔑称へ落としめるのに一役買っていたのではないかな?と思い起こすのであります。
3.ヘビーメタルとの違い
HR/HMのアーティストからはあまりに懸け離れたイメージがヘビメタという言葉とイコールになり一人歩きしだした為、HR/HMを知る人は「ヘビーメタルとヘビメタは違う!」と、差別化したのだろう。
そして俺のような後続のファンもそれを受け継ぎ、実践した。
確かに上記の要素を持ったアーティスト達もいるにはいる。
例えば派手な外見はKISSとかハノイロックスとか、あとはモトリークルーなどのLAメタル。
ハイトーンボーカルはロックなら当たり前の唱法で、時にはメロディアスに歌い上げ、時にはシャウトを効果的に使う。
ノイズのようなパートもあくまで演出で、その後の爽快さを生み出す前フリだったり。
予備知識無しでオジー・オズボーンのパフォーマンスを見ればどう考えても「奇人変人、危ないおじさん」。
そういった表面にとんがった部分だけをかいつまみ、本質...というかイイ部分を排除。
つまり無知ゆえの勝手な解釈で描き出したイメージの集合体がヘビメタと考える。
「ええっ!ヘビメタとヘビーメタルって違うの!?」
こんな質問を今まで何度もされた。
まあこれは俺がヘビメタという言葉に反応し、訂正を加えることから始まるのだが罪も無い人達にこんこんと語るのは完全に「解釈の押し付け」だ。
ただ俺の話は前置きが長く、要約するのが下手なので最後まで語り切ったことは無い。
HR/HMな人々がヘビーメタルを略す時はメタルという。
ヘビメタという略語は嫌うがメタラーという意味不明な-er形は割と受け入れたりする。
例文:「アイツ、おとなしそうだけど実はメタラーなんだぜ」
4.ヘビメタとヴィジュアル系
ヴィジュアル系・・・これもヘビメタ同様、良く使われるが誤解を招きやすい言葉。
グラム・ロックのようにヴィジュアル面を意識して自らヴィジュアル系を標榜する人達もいれば、当人が意識してないのに勝手にヴィジュアル系とカテゴライズされて嫌悪感を抱く人達もいる。
ヴィジュアル系の源流の一つにX(エックス)がある。
そしてXは先述の「元気が出るテレビ!!」でヘビメタ・バンドとしてお茶の間に登場した。
これを三段論法で考えてみると、
1 ヴィジュアル系の源流の一つはXである
2 Xはヘビメタである
3 ゆえに、ヴィジュアル系の源流の一つはヘビメタである
...多少無理はあるが、あながち間違いとも言えない感じはする。
そもそもヴィジュアル系は音楽的に区別されたジャンルではないので、アーティストによって音楽性は千差万別。(歌謡ロックの傾向が強いが)
何に影響を受けた?と問われれば曲解されたHR/HM=ヘビメタもあるだろうし、ビートロックもあるだろうし、洋楽もあるだろう・・・。
ヴィジュアル系全盛期に、来日していたアメリカのHR/HMバンド、ドリームシアターのジェームズ・ラブリエ(vo.)のインタヴューにこういうのがあった。
「夜にTVを見てたんだけど、日本のバンドは面白いよね。
だって皆グラム・ロックみたいな格好をしてポップ・ソングを演奏してるんだから!」
ラブリエがどのヴィジュアル系バンドを見てそういったのかは分からないが、そうです、そうなんです。
海外の音楽文化を取り入れた日本のミュージック・シーンは独自の進化を遂げているんです。
“Xはヘビメタ”と書いたがコーナー出演者という意味で、X自体を卑下した訳ではない。
俺も好きだったし、日本のロック史において偉大な存在だ。
HIDEもアイアンメイデンから曲作りのアイディアを学んだって言うくらい、HR/HMに対して造詣は深いと思うし。
5.現在での意味合い
HR/HMファンから長きに渡って嫌われてきたヘビメタも最近は解釈が変わってきたように思う。
以前に比べればファンでさえもサクッと使うし、通るようになってきた。
何故か?ちょっと考えてみた。
▼ファンの高齢化
かつてのファンも徐々に高齢化してだいぶおっさんになり、人間的にも角が取れてきた。
ヘビメタと言われたからって一々目くじら立てる人が減ったのではないか?
それと時が経つにつれヘビメタに対する世間の誤解も減ってきた?
▼ちょっと自虐的に
所詮HR/HMはオールドウェーブ。
今さら鋼鉄の魂をぶつけ、メロイックサインを掲げながら「Heavy Metal!!」と叫ぶのはあまりに暑苦しい。
好きな気持ちは変わらないが、世間一般に合わせるために自らへりくだって使い始めたのではないか?
▼名称の淘汰
『ヘビメタさん』というタイトルもそうだが、番組内で音楽業界人が普通に使っている。
どんなものでも呼び名が複数ある場合は自然に淘汰されていく。
ハードロックのムーブメントには様々なものがあり、代表的なヘビーメタルを始め、細かいジャンルは枝別れしていく。
このムーブメントを大きく捉えた時にHR/HMという表記を使うが、ハッキリ言って口語では使いにくい。
それを表すのには結局ナンダカンダいってヘビメタが一番使いやすくて分かりやすい、という所に落ち着いたのではないか?
▼愛すべき文化
今となってはヘビメタという言葉に侮蔑や悪意は感じられない。
ディスコやソウルミュージックと同等の感覚すら感じる。
ノスタルジーみたいな。
愛すべき一つの音楽文化としてヘビメタが根付いたのではないか?
まあ時間は全てを解決してくれるという事か・・・。
どうでしょう?
ヘビメタの変遷を書き綴りましたがご理解頂けたでしょうか?
音楽性についてはあまり触れなかったけど、実はかわいらしくて親しみあるものなんですよー。
ヘビメタ好きな人も演ってる人も結構マジメで気弱でおとなしい人が多いし。
あなたの周りにもきっと『ヘビメタさん』がいるでしょうから、イジメないで優しくしてあげて下さい。
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